Saturday, January 30, 2010

ハウンド・ドッグ・テイラー












「Hound Dog Taylor and the HouseRockers」 1971年発売

1970年代初頭、シカゴのレコード会社で配送係として働いていた白人青年ブルース・イグロアは、小さなクラブで演奏していた6本指のスライドギタリストに衝撃を受ける。すぐさま勤めていたレコード会社のオーナーにレコーディングさせてほしいと訴え出るが断られてしまう。そこで伯母の遺産5000ドルを使って、自らレーベルを立ち上げ彼のレコードを世に出すことを決意する。

そんなエピソードもイカした、1971年にアリゲーター・レコーズ第1弾としてリリースされたハウンド・ドッグ・テイラーと彼のバンド、ハウス・ロッカーズのアルバム。

歪まくったエグいギターサウンドがなんともガラが悪くてカッコイイ!
まさに全編、場末のクラブ状態。

ちなみにハウンド・ドッグ・テイラーは、この時点で56歳。

このレコードがリリースされる前は、5人の子供を抱えながら、「パーティ、結婚式、クラブには"ブルース&ロックンロール"を」という文句と自宅の電話番号を書いたブックカバーマッチを配ったりしながら、格安のギャラで演奏していたらしい。

そんな、客をノセる、楽しませるといった行為が体の芯まで染み付いた男たちの凄みが詰まっている名作。

このアルバムのわずか4年後にテイラーは亡くなってしまうが、生前よくこう言っていたという。

「おれが死んだら、みんなこういうだろう ― あいつはクソほど弾けなかったが、たしかにいい音させてたぜ!」

Wednesday, January 27, 2010

明日なき報酬
















「明日なき報酬」 ブラッド・スミス
石田善彦訳 講談社文庫 2002年発行

「引退した元花形ボクサー、トミー・コクランは、相棒の黒人Tボーンと故郷へ帰ってきた。祖父の農場を取り戻すため一ヵ月以内に五千ドルの大金が必要になったコクランは、ポーカー、競馬に有り金を注ぎ込むが…」

舞台は、1959年のカナダのトロント。

ボクシングのプロモーター、ポルノ映画監督、ギャンブラー、売り出し中の新人ボクサー、街のチンピラなど、己の欲望・利益に忠実なアクの強いキャラクターがひしめいている、が皆いずれもいい感じに小悪党。

そんなエルモア・レナードの作品にも共通する悪役の人間臭さが1959年の猥雑な街の雰囲気をさらに盛り上げる。

多くを語らずに不利な戦いに挑んでいく主人公の姿や黒人の相棒Tボーンの捨て身の友情に心打たれた。

ひねりを利かせたラストの展開も見事。

読み応え十分の逸品!おすすめです。

Monday, January 25, 2010

ロバート・B・パーカー














ロバート・B・パーカーが亡くなった。

海外物の小説にはまるきっかけになったのが友人に薦められたジェームス・エルロイの「ブラック・ダリア」、そしてロバート・B・パーカーの「探偵スペンサーシリーズ」だった。

ボストンが舞台のこのシリーズ、ハードボイルド小説なのに主人公がスポーツと料理が好きな探偵という設定もいかしていた。

何年も前だけど、一時期よく読んだなあ。

「骨付きバラ肉が焼きあがり、パンがあたたまった。スライスしたズーキーニをビール・バターにつっこみ、少量のオリーブ・オイルでいためた。ひとりぼっちで食事をするのはしょっちゅうだ。なのにきょうにかぎってわびしい気分がする……どういうわけだろう?」
-『失投』より(菊池光訳 早川書房 1985年発行)

料理のシーンもハードボイルド、菊池光氏の翻訳も最高だった。

慎んでご冥福をお祈りします。

Sunday, January 24, 2010

皆殺し
















「皆殺し」 ローレンス・ブロック
田口俊樹訳 二見書房 1999年発行


「友人ミックの手下が、郊外の倉庫で何者かに惨殺された。ミックの依頼をうけて、スカダーは犯人探しを請け負うことになる。だが調査を進めるうちに、スカダーは敵の襲撃にあい、抗争に巻きこまれた周囲の人間までもが、次々に殺されていく……。追いつめられてゆくミックとスカダー。はたしてふたりはこの戦いから生還することができるのか。そして姿なき暗殺者の意外な正体とは…」

ニューヨークを舞台とした「マット・スカダーシリーズ」第16作目。
(第1作は1976年!)

シリーズ物は、読み続けていくと主人公はもちろん、常連のように登場するサブキャラクター達にも愛着がわいてくる。しかし今回はそんなすっかりお馴染みになった脇役達が次々と容赦なく殺されていく。

インパクトのあるタイトルとおり衝撃的な展開を見せながら同時に友情や人生の深みをしみじみと描き切ってしまうバランス感覚が素晴らしい。

裏切り物を始末し、敵地へと乗り込む場面でのスカダーとミック・バルーの会話の味わい深さはなんて、もう最高としかいいようがない。

ハードボイルド界の巨匠の筆が冴え渡る傑作。

Thursday, January 21, 2010

雨に祈りを
















「雨に祈りを」 デニス レヘイン
鎌田 三平訳 角川文庫 2002年発行

「裕福な家で大事に育てられたピュアな女―それが探偵パトリックの抱いた、カレン・ニコルズの第一印象だった。だが6カ月後、彼女は全裸で投身自殺を図ってしまう。この短期間に、何が彼女をそこまで追いつめたのか。調査すると、カレンは死に至る6カ月の間に、フィアンセが事故死し、失業し、住む場所を失い、最後には精神に変調を来していた。彼女を破滅させようとした明確な意図の存在を確信するパトリック。だが一体誰が、何のために!?」

「私立探偵パトリック&アンジー」シリーズ第5作目。古本屋で見つけたので早速購入。続きが気になっていたのでいいタイミングで読めた。

前作同様、先の読めない緊迫感のあるストーリー展開。一気に引き込まれた。曇り空のように陰鬱な雰囲気だった前作と比べ、今作はダークな手ごたえながらも、からっとしたアッパー感に溢れている。

軽口を叩きながら執拗に犯人を追い詰めていくパトリックとアンジーの姿がなんとも痛快。これぞ精神的な危機を脱した人間の力強さ。凶暴なサブキャラクター、ブッバの活躍も嬉しい。

前作で主人公に感情移入してしまった分、やけに爽快な読了感だった。
いや、これこそ作者の狙いなんだろうか。

傑作。未読の方は、前作とセットで読むのがおすすめ。

Monday, January 18, 2010

愛しき者はすべて去りゆく
















「愛しき者はすべて去りゆく」 デニス・レヘイン
鎌田 三平訳 角川文庫 2001年発行

「誘拐された四歳の少女。麻薬取引の売上を持ち逃げしていたアル中の母親。この少女が消えて80時間が経過し、捜査依頼を拒み続けていた私立探偵パトリックとアンジーは遂に動き出す。しかしこの少女の捜索は、2人の愛、精神、そして生命までもを失う危険を孕んでいた―。」

2003年に全米公開された、クリント・イーストウッド監督「ミスティック・リバー」。その原作者でもあるデニス・レヘインのハードボイルド作品「私立探偵パトリック&アンジー」シリーズ第4作目。

舞台は、90年代末のボストン。このシリーズを読むのは初めてだけど、全編を漂う重い雰囲気とシリアスなトーンは「ミスティック・リバー」を凌駕してるのではないだろうか。

パトリックとアンジーのユーモアある軽妙さをも徐々に飲み込んでいくような不吉な予感と不条理感、そしてなんともやるせない気持ちにさせるラストが独特の余韻を残す。

思わず主人公パトリックに気持ちが入ってしまった。このシリーズの続編が気になる。
















ちなみこの作品は、ベン・アフレック(アルマゲドン!)の監督デビュー作品として映画化されている。これも機会があれば見てみよう。

Friday, January 15, 2010

俺たちの日
















「俺たちの日」 ジョージ・P・パレケーノス
佐藤耕士訳 ハヤカワミステリ文庫 1999年発行

「ギャングのボスのために借金を取り立てる---どんな危険も顧みない幼なじみのジョーとピートにとって、それは簡単な仕事だった。が、非情になりきれないピートは取り立てを見送り、見せしめのためギャングの手下に脚を折られてしまう。三年後、小さな食堂の店員として働くピートの前に、いまやボスの片腕となったジョーが現れ・・・」

これは傑作。いいものを読んだ。

舞台は、1930年代から1940年代末のワシントンDC。ギリシャ系移民二世である主人公ピート・カラスの少年時代からの物語を軸に話は展開していく。

逆境に立たされようとあくまで自分の信念を貫こうとする不屈の男の精神が心を揺さぶる。壮絶な最後のシーンもすこぶる爽やかなものとして心にしみた。

たよりになる男の魅力、傷ついた過去をもつ男たちの優しさなど、サム・ペキンパーやウォルター・ヒルなどの70年代の映画に共通するハードボイルドな手ごたえを感じる逸品。

Monday, January 11, 2010

快楽通りの悪魔
















「快楽通りの悪魔」デイヴィッド・フルマー
田村義進訳 新潮文庫 2004年発行


「人種差別さめやらぬ1907年のニューオーリンズ。外見は白人ながら黒人の血を引く異端の私立探偵ヴァレンティンは、娼婦ばかりを狙った猟奇殺人事件に巻き込まれる。現場には黒い薔薇が遺され、被害者全員が死の直前に彼の親友のコルネット奏者バディと会っていた…。」

舞台のストーリーヴィルは、1897年から1917年までニューオーリンズに存在したという娼館や賭博場、酒場がひしめく伝説の街。
  
緊迫感のあるストーリー展開もさることながら、主人公のクレオール探偵ヴァレンティンの鋭く醒めた観察眼を介して描かれるジャズ黎明期のニューオーリンズに強力に興味をかきたてられた。最近ニューオリンズにとても興味があるのでこのような作品が読めるのは嬉しい。

ストーリーヴィルのボス、トム・アンダーソン、ストーリーヴィルの娼婦のポートレートで知られる写真家アーネスト・J・ベロック、そしてジャズの創始者とされるバディ・ボールデンら実在した人物の配し方も見事。

解説によると作者のデイヴィット・フルマーは、雑誌にブルースやジャズに関する記事を数多く寄稿し、1920~40年代に活躍したブルース・ギタリスト、ブラインド・ウイリー・ジョンソンのドキュメンタリーフィルムを製作を行うなどの経歴を持つ、かなりの音楽に精通した人らしい。

ディテールにこだわりを感じる映画を見終えたかのような余韻を残す味わい深い作品。ニューオーリンズの音楽・歴史の興味のある人におすすめ。

Sunday, January 10, 2010

シンプル・プラン
















「シンプル・プラン」スコット・スミス
近藤純夫訳 扶桑社ミステリー 1994年発行


「雪深い田舎町、そこに暮らすハンクとその兄ジェイコブ、兄の友人のルーは、ある日墜落した飛行機を発見する。そこには440万ドルもの現金が隠されていた。3人は、その金を保管し、半年待って何事も起きなければ山分けしようとごくシンプル計画を立てる。しかしこれが悪夢のような悲劇の始まりだった・・・」

舞台は、アメリカ オハイオ州。平凡だが幸せに暮らしていた普通の人々がふと手にいれた大金がきっかけに徐々に破綻していく。一つ一つの出来事が積み重なり、どんどん深みにはまって行く様が異様なリアリティーで描かれている。

ちなみにこの作品、サム・ライミ(脚本は、スコット・スミス(作者))によって映画化されているらしい。機会があったら見てみよう。

Friday, January 8, 2010

嵐を走る者
















「嵐を走る者」 T.ジェファーソン パーカー 
七搦 理美子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 2009年発行


「元保安官補のストロームソーは、自分を狙った爆弾のせいで妻と息子を失った。犯人はマフィアのボス・タバレス。二人の男は高校時代、同じマーチングバンドに所属し、何でも打ち明けあう友人だったのだが・・・」

現代の南カリフォルニアが舞台。

かつては友人同士だったストロームソーとタバレスがどのようにして相対的な道を進むようになったのか、なぜ敵対するようになったのか、2人の登場人物の視点が切り替わるスタイルで過去を明らかにしつつ、新たな事件が進行していくプロットが素晴らしい。そして2人の直接対決に向かって物語は加速していく。

喪失感をにじませながらもストイックに任務を遂行する男たちのたたずまいが痺れる。

文句なしに面白かった。T・ジェファーソン・パーカーは、「サイレント・ジョー」以降本当にはずれなし。この作家を薦めてくれた友人に改めて感謝。

全くの余談だけど、主人公と恋人がサンフランシスコに旅行に行き、フィッシャーマンズ・ワーフでワインを飲むくだりで、ワインではなく、にメンドシノ・ジンファンデルと書いてあったのが印象的だった。

Thursday, January 7, 2010

フェイド 

















「フェイド」 ロバート・コーミア

北澤和彦訳 扶桑社ミステリー 1993年発行


とても面白かった。

舞台は大恐慌時代のアメリカ。田舎町に住む少年ポールは、ある日、自分に姿を消す能力があるのを発見する。

特別な能力を持ってしまった人間の悲哀を描きながらも、全編にノスタルジックな空気感に溢れてて味わい深い。スティーブン・キングが絶賛するのも納得の強力に引き込む力を持った作品だった。

ロバート・コーミアは、今まで知らなかったけどこれから要チェックの作家。

Monday, January 4, 2010

ブログスタート!

はじめましてMendocinoこと小山です。

好きなこと・興味のあるなどを自分の中で整理する意味も込めて
このブログで取り上げていきたいと思います。

よろしくお願いします。