Friday, February 26, 2010

凶手
















「凶手」 アンドリュー・ヴァクス
佐々田 雅子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1998年発行

生き別れになった恋人を求めてさすらう孤独な殺し屋の物語。

ストイックなまでに抑制されたムード、徹底的に削ぎ落とした文体そして冷酷なまでの簡潔な描写が見事に作用し、殺し屋である主人公の心の揺れが息遣いのように生々しく伝わってくる。

まるで自らの存在理由を確かめるかのように恋人シェラを求め彷徨う主人公の姿があまりに切ない。

この作品を読むのは二度目だけど研ぎ澄まされたような完成度の高さにあらためて魅了された。

現在ハードボイルドの一つの到達点といっても過言ではない、極めて純度の高い傑作。

Tuesday, February 23, 2010

ニューヨーク編集者物語
















「ニューヨーク編集者物語」 ドナルド・E・ウェストレイク
木村仁良訳 扶桑社ミステリー 1989年発行

60年代から数多くの作品を発表し本名以外にも様々な名義でも作品を残している偉大なるミステリー界の名匠、ドナルド・E・ウェストレイクの1984年に発表された作品。

アメリカ出版界の内幕を描いたどたばた喜劇でニューヨークが舞台。

コメディタッチの手軽に読める作品ながら、ウェストレイクらしい軽妙な可笑しさがあって楽しめた。全編に漂う、どことなく浮かれたムードは80年代特有の雰囲気なのかな。

ウェストレイクは、不運な泥棒の"ドートマンダーシリーズ”やリチャード・スターク名義の"悪党パーカーシリーズ"を読んで一気にファンになったんだけど、60年代~70年代に発行された作品は、すでに絶版になっているものが多く、なかなか読めないのが悩ましいところ。

最近、彼の過去の作品が復刊される動きがあるのは大歓迎!個人的には、悪党パーカー全シリーズの再発熱望!(絶版ものは、高くて買えない・・)

Sunday, February 21, 2010

身元不明者89号
















「身元不明者89号」 エルモア・レナード
田口俊樹訳 創元推理文庫 2007年発行

「ジャック・C・ライアンは裁判所の発行する法的文書の送達人。指定された相手を探し出し、令状や召喚状を持ち前の度胸と機転で受け取らせるのが仕事だ。ある日、ちょっとしたこづかい稼ぎのつもりで簡単に引き受けた人探しの仕事が彼をとんでもないトラブルに巻き込んでいく…。」

映画「ジャッキー・ブラウン」や「ビー・クール」などの原作者としても有名なクライム・ノベルの巨匠エルモア・レナードの1977年に発表された作品。

日本では長らく未発売だったが2007年にようやく発行。こういう復刊は、非常にありがたい!

小説が書かれた1970年代後半の空気や雰囲気がもうたまらない。主人公ライアンの乗るクルマが、警察主催のカー・オークションで250ドルで買ったドアに四つの銃痕のある1970年製の中古のマーキュリークーガーだなんて嬉しくなる。

もちろん小説そのものも最高。デトロイトを舞台にエルモア・レナードならではの人間味あふれるクセのあるキャラクターたちがドライにクールに動き回る。

読み終わるのがもったいない!けど止まらない、そんな理想的な逸品。
おすすめです。

Thursday, February 18, 2010

ランゴリアーズ
















「ランゴリアーズ 」 スティーブン・キング
小尾芙佐訳 文春文庫 1999年発行

この作品は、スティーブン・キングが1990年に発表した中篇小説集「Four Past Midnight」に収録された「ランゴリアーズ」、「秘密の窓、秘密の庭」の中篇2作を1冊にまとめたもの。

スティーブン・キングを読むのは、久々だけど相変わらずの卓越したストーリー・テラーぶり。いつものことながら一気に読んでしまった。

ちなみに、「ランゴリアーズ」は、1995年にアメリカTVドラマとして(2008年国内DVD化)、「秘密の窓、秘密の庭」は、ジョニー・デップ主演で2004年に「シークレットウインドウ」として映画化されているそう。知らなかった!

Wednesday, February 17, 2010

タジ・マハール 「The Essential」












タジ・マハール 「The Essential」 2005年発売

タジ・マハールの1967年のソロデビュー作から2000年までの軌跡が濃縮された2枚組みのベスト盤。

普段あまりベスト盤を買うことは無いんだけどこれは、これは思わず購入!

ブルースなどのアメリカのルーツ・ミュージックに基礎を置きながらカリビアンやレゲエやハワイアンそしてアフリカなど様々な音楽を柔軟に取り込んで独自の解釈で発展させてきたタジ・マハールの長~い音楽の旅が一気に味わえる。これはベストならではの贅沢。

ジェシ・エド・デイビスを従えたデビュー当初のスワンプなブルースから、ウェイラーズとの共演したレゲエ、まるでカリブ海の島で昼寝をしているかのような心地のよい曲など聴きどころ満載。

タジ・マハールと似たような資質を持つミュージシャンとしてライ・クーダーが挙げられるけど(元々一緒にバンドやってたしね)ライが音楽の求道者的な雰囲気があるのに対し、タジの音楽には、色々な国や地域の料理を食らい、自らの血や汗にしてしまうような豪快なたくましさを感じてしまう。

いやーいいなー、やっぱりアルバム揃えよう!

最近、仕事中かけっぱなし!な1枚。

Monday, February 15, 2010

ディック・フランシス












「競馬シリーズ」で名高いイギリスの作家、ディック・フランシスが亡くなった。享年89歳。

競馬そのものにあまり興味がないこともあり、最初は、なんとなく読むのをを敬遠していたんだけど、なにげなく手にした「罰金」(1977年発行)のあまりの面白さに一気に開眼!シリーズをむさぼるように読んだ。

ディック・フランシスは、イギリスの元競馬騎手で引退後、新聞記者になり、42歳の時に「本命」(1962年発行)で作家としてデビューする。

その後、年に約1冊のペースでに作品を発表し続け、40冊ほどの作品を世に送り出す。

2000年、執筆の最大の協力者であった奥さんが亡くなり、以降6年間沈黙する。そして誰もがもう引退してしまったと思っていた2006年、「再起」を発表、彼は復活する。

この時すでに85歳、まるで彼の小説を連想させるようなこの復活劇は、ファンの胸を熱くさせた。

ちなみに「再起」は、シリーズ屈指のヒーロー、シッド・ハレーの4回目の登場だったこともあり、より味わうために前3作を読み返してから読みました。「再起」以降の3作だけは、まだ未読。楽しみにとっておこう。

ディック・フランシスを未読の方は、だまされたと思って1冊読んでみて欲しい、男の不屈の精神に熱くなり、奮い立つこと間違いなし。(競馬に興味なくても全く問題なし!)

余談だけど、以前、電車でディック・フランシスを読んでいたら、偶然にも隣に立っていたスーツを着た年配の男の人もディック・フランシスのハード・カバーを読んでいて、なんか嬉しくなったのを思い出した。

謹んでご冥福をお祈りします。

Friday, February 12, 2010

プロフェッサー・ロングヘア












プロフェッサー・ロングヘア 「Rock 'n Roll Gumbo」 1973年発売


ドクター・ジョン、アラン・トゥーサンらの師匠にして、偉大なるニューオーリンズの"ピアノ・ブルース"のゴット・ファーザー、プロフェッサー・ロングヘアの1973年のアルバム。

1曲目からいきなりヤバイ、カッコイイ!転がりまくるピアノにとぼけた歌声!そして、高揚感あふれるノリノリの曲が次から次へと繰り出される快感!これはクセになる。

まさに人間が踊り騒ぐための音楽!

ライブも凄まじかったようで、ドクター・ジョンの自伝『フードゥー・ムーンの下で』や『ブルースに焦がれて』(大栄出版)によるとピアノをキーボード兼ベースドラムとして使い(足でピアノを蹴飛ばして)、月に1台は、ピアノをバラバラにしてしまってたそうだ。すごい話だなあ・・・

地元ニューオーリンズで50~60年代にかけて何枚かのレコードも出し、ヒットも飛ばすも、音楽だけでは生活ができずギャンブラーが本職のような生活していたという。

プロフェッサー自身もプロのミュージシャンと云う以上に、プロのギャンブラーとしての自覚が強かったというから可笑しい。

ハウンド・ドッグ・テイラーと同じように70年代に白人のブルースファンに"再発見"され復帰作としてレコーディングされたのが今作。

前作のレコーディングから約10年のブランク、しかもわずか3日のセッションで制作されたのに、この圧倒的な素晴らしさ。

すごすぎるぜ、教授!

インパクトのある芸名、味のあるルックスも含めすべてが最高な1枚。

Wednesday, February 10, 2010

ニック・ロウ  「The Convincer」











ニック・ロウ  「The Convincer」 2001年発売


ニック・ロウの2001年に発売されたアルバム。

去年、ライ・クーダーとニック・ロウのコンサートに行かれたウオーラー夫妻に貸していただいた。(いつもお世話になっております!)

ニック・ロウは、彼が70年代にやっていたバンド、ブリンズリー・シュオーツやソロの作品は大好きなんだけど、最近の作品は、なかなか聴く機会がなかったのでとてもありがたい。

正直、そんなに期待していなかったけど、予想以上に素晴らしい内容で、びっくり! 1曲目からいきなり持って行かれた。

美しいメロディー・ラインに全く無駄のないアレンジ、そしてアルバム全体を包み込む水墨画のような淡いトーンが心地よく沁みる。

円熟した大人な佇まいの中にも、イギリス人らしい洒落ッ気があって、(まさにジャケットのポートレイトのよう!)なんとも穏やかな気分にさせてくれる。

まったく、ニック・ロウは、素敵な年の重ね方しているなあ。

夜、仕事を終えて寝る前のひと時にゆっくり聴きたいアルバム。

Tuesday, February 9, 2010

逃切















「逃切」 ディーン・R・クーンツ
菊池 光訳 創元推理文庫 1988年発行

スティーブン・キングと並び称されるモダンホラーの巨匠、ディーン・R・クーンツの初期の作品(原書は、1974年発行)

舞台は、1970年代のペンシルバニア州の競馬場。

タイトルもテーマもディック・フランシスの「競馬シリーズ」を彷彿させるし、翻訳もロバート・B・パーカーやディック・フランシスの諸作でのハードボイルドな名訳で名高い菊池光氏だ!これは 否が応にも期待が高まる!

「ギャサリンは、三六〇度、ゆっくりと向きを変えながら、その二本のカバの木の間の空地を慎重に見渡した。逃走係は、ここで合図を待つ。ここは見通しがきく。木陰に立つ。鳥のほか人っ子一人いない。完璧だ。」

冒頭の雰囲気もイイ!これはハードボイルドなクーンツの隠れた傑作かと意気込んで読んだ・・・!

しかし残念ながら、登場人物が多すぎるし、キャラの描写も今一歩踏み込めていないために物語の焦点がぼやけている。全体的に散漫な印象が否めない凡庸な出来。

ただ今のクーンツのスタイルの原型のようなものは随所に感じられるし、70年代的なザラっとした感触は楽しめた。

クーンツの若き日の記録という点では、興味深い作品。

Monday, February 8, 2010

デレク・トラックス・バンド 「Already Free」












デレク・トラックス・バンド 「Already Free」 2009年発売

オールマン・ブラザーズバンドのドラマー、ブッチ・トラックスの甥にあたり、自身もオールマンに所属しているデレク・トラックスの2009年の作品。

前から気になってて入手しようと思いながらも、なかなか聴けずにいたアルバム、中古で安く見つけたので迷わず購入した。

購入後すぐに車で遠出する用事があったので早速カーステレオに入れたら、もう最高の一言。結局、行きも帰りもずっとこのアルバムを聴きっぱなしだった。

一丸となってグルーヴしまくるバンドサウンドに縦横無尽に炸裂する粘っこくて奔放なスライドギター、これはもう昇天あるのみ。

ブルースやサザン・ロックがベースになっているんだけど、ソウル、ファンク、ジャズなど様々な要素を感じさせる奥深さ、いやーすごい!こんなことならもっと早く買えばよかった・・!

ブラック・クロウズにもいえるけど基本やルーツをしっかり抑えながら自由な感覚でこれまでにない新しい音楽を創り出そうとする姿勢にはホントに頭がさがる。

今年のグラミー賞で『Best Contemporary Blues Album』部門を受賞したのも超納得の素晴らしい作品。ジャケットもいいね。

Sunday, February 7, 2010

グリーンリバー・ライジング

















「グリーンリバー・ライジング」ティム・ウィロックス
東江一紀訳 角川文庫 1997年発行

いやーこれは面白かった。

舞台は、テキサス東部の刑務所グリーンリバー。あることをきっかけに対立していた黒人グループと白人グループはついに全面戦争を迎える。外界から完全に遮断された空間の中で囚人たちの狂気と暴力が爆発する。

複雑にからみ合うプロット、息を吐かせぬ展開、せき立てられるように読むのが止まらなかった。

パニック、冒険、友情、恋愛、神話など、様々な要素が高濃度に圧縮された傑作。おすすめです。